Interview: Junichi Tsuchiya (2002-05-30) by Sega.jp
From Sega Retro
This is an unaltered copy of an interview of Junichi Tsuchiya, for use as a primary source on Sega Retro. Please do not edit the contents below. Language: Japanese Original source: Sega.jp: Creators Note |
{{JPTranslate
|jp=
セガのゲームを作る、あんな人、こんな人。 どんな人が、どんなことを考えて、セガのゲームは生まれるのか? それぞれのクリエイターが持つ“こだわり”や“発想”、開発中に起きるエピソードなど、普段はなかなか聞けないことを、直接会って聞いてみよう! というこのコーナー。 今回は、トレーディングカードを使用した斬新なサッカーゲーム『ワールドクラブ チャンピオンフットボール セリエA 2001-2002』(業務用)(以下『WCCF』)のプロデューサーである土屋淳一氏に、発売直前の本作の魅力を語っていただきました! 土屋 淳一(つちや・じゅんいち) (株)ヒットメーカー 企画プロデュース部 『WCCF』プロデューサー 1964年生まれ AB型 ■主な経歴 1987年入社、セガ第一研究開発部に配属。初ディレクター作品『ジャンボ尾崎スーパーマスターズ』以降、CS1研、AM2研、AM3研時代に『ダイダロス』『ウインターヒート』『シェンムー』など数々の作品を手がける。 現在、ヒットメーカー期待の新作『ワールドクラブ チャンピオンフットボール セリエA 2001-2002』のプロデューサー。 —— 今回のクリエイターズノートは、『WCCF』という、まったく新しいタイプのゲームを紹介するので、プロデューサーの土屋さんには“ゲームのお話”中心に語っていただきたいな、と思っています。 最初の質問はいつも大雑把なものになってしまうんですが、土屋さんのいわゆる“ゲーム歴”を話していただけませんか。 土屋■まだゲームセンターというものが世の中に登場する前から、デパートの屋上でフリッパー(ピンボール)やったり、小学校低学年の時には、図書館に行った帰りに『ポントロン』(*1)やっていました。 “ブロックくずし”は片っ端からやっていたし、『インベーダー』も100円玉を積んでやるくらいにめちゃくちゃはまっていました。 大学時代も友人とたまる場所といえば、喫茶店とかゲームセンターしかなかったので、『ゼビウス』から“体感ゲーム”まで、本当によくやりました。 こうして思い返してみると、アーケードゲームの波にずっと取り込まれてきたのかな、と。 —— ゲームセンターには、かなり通ってたみたいですね(笑)。 土屋■そうですね(笑)。 インベーダーゲームが入っていた喫茶店も含めると街の小さなゲームセンターなど色々な場所にたまってました(笑)。 大学時代には、神田のジャック&ベティというゲームセンターが友人とのたまり場になっていました。 そこは座るだけで無料のコーヒーを運んできてくれたんです。ちっちゃいカップにあたたかいコーヒーを淹れて。 ヒットメーカーが『ダービーオーナーズクラブ』(*2)(以下『DOC』)を出したとき、このゲームセンターのことを思い出したんです。 『DOC』って、必ずそこに馬の好きな人がたまっているじゃないですか。そして、その空間に行くと心地いい。その心地いい感じが、どことなく似ていたんです。 —— ただのたまり場ではなくて、“心地いいたまり場”なんですね。 土屋■今回の『WCCF』でも、この、“たまれる”っていう要素は大切にしています。 ネットで顔の見えないコミュニケーションって増えてるけど、やっぱり隣の人間の顔は見えていたほうがいいかな、と。 こんな風に考えるのは、きっと『DOC』とかジャック&ベティとか、そういうところからの刷り込みがあるのかな、と思っています。 —— それでは『WCCF』についていろいろと伺いたいと思います。 まず本作の最大の特徴でもある“トレーディングカードを使ったビデオゲーム”というアイディアは、どのようにして生まれたのでしょうか? 土屋■はじまりはあるんです。 『DOC』の次の作品を考えているとき、モニターの中に、例えばモンスターが実際のリアルカードから出てきたら面白いだろうってノリで思ったんです。で、ファンタジーカードバトルの『DOC』みたいな企画に一旦なりました、ハハハ。 でも、トレカを採用した本当の理由は、『DOC』に比べて知らない人同士が声をかけやすくするためです。 —— 確かに知らない人同士のコミュニケーションは増えるかもしれないですね。 土屋■そんな感じでゲームセンターのなかで展開したら面白いでしょう、と小口さん(*1)にプレゼンしたんです。 そうしたら、小口さんから「ゲームセンターのユーザーにダイレクトにアピールできるようなテーマにしたほうがいい」とアドバイスをいただきまして、それでサッカーでいこうということになりました。W杯もあるしね(笑)。 —— なるほど(笑)。 土屋■でも、もうひとつ言えるのは、1枚のカードに11人の選手がメモリーされていて、それを育成していくとか、そういう誰でも考えるようなゲームでは嫌だったんです。 とにかく、ぱっと見てスゲーと思うものが作りたかったんですね。それがこのシステムです。 土屋■11枚のカードを使って、フォーメーションを組む事がゲームの最大の売りですが、そこをゲームとして仕上げることは大変でした。 さらに、サッカーはフォーメーションだけで勝敗が決まるわけではないので、フォーメーション配置というアナログ的な良さを残しつつ、戦略、戦術のかけひきができる点には、こだわりました。 あと、選手能力など信憑性に関わってくる部分にもこだわりました。 たとえば、選手にはスピードとかスタミナなど、いくつものパラメータが設定されているんですが、そういうデータはすべてパニーニさんからもらっているんです。 パニーニさんはカード会社なんですけど、その関連会社にDSPというヨーロッパサッカーのデータ作りをうりにしている会社があるんです。 カードの裏に載っている、選手がフィールドのどこで多くプレーしていたか、なんていう凄いデータもDSPさんからもらいました。 ロナウドやバティストゥータは凄いシュートうちますけど、このゲームでも、もちろんパラメータは高くて凄いシュートをうちます。 ワールドカップを見ていると、カードの選手がパラメータの通りに活躍してくれて、ほっとしています。(笑) —— そこは、信頼に関わってくる部分ですからね(笑)。 土屋■いま、W杯でいろんな選手が日本に来てるじゃないですか。 全員が、デルピエロみたいに高いパラメータ持ってるわけじゃないんですよ。当然、なかにはパッとしない数値の選手もいるわけです。 そういう選手が、ロケテストをしている渋谷GIGO(*2)にフラッと遊びにきて、「うわっ、俺って弱っー!」なんてことにならないか、ちょっとドキドキなんですけどね(笑)。 —— たとえば『DOC』の場合だと、それぞれのゲームセンターにちいさなコミュニティのようなものができて、昼間からサラリーマンらしき人たちが馬について熱く語っていたりするわけですが、『WCCF』でもそういった現象は見られるかもしれないですね。 土屋■そうですね(笑)。 渋谷GIGOにウォッチに行くんですが、毎回朝から晩まで必ずプレーしてる人がいるんです。何の仕事をしている人なんだろうって心配になっちゃいます。 しかも、最近は過激になってきて、朝4時起きとかして店の前に並んでいるんですよ。 なんで朝、並んでいるのかって聞いたら、「朝はレアカードが出やすい」って言うんです(笑)。 僕は用意周到派なので、わりといろんなことを考えて仕組んでいるのですが、予測できなかったことで一番びっくりしたのが、この“モーニング狙い”ですね(笑)。 —— パチンコじゃないんですからねぇ(苦笑)。 土屋■でも確かにその傾向があったみたいです。朝にカードは補充しますので。 —— うーん、信じて良いのか悪いのか…。 土屋■それから、黒いスペシャルなカードが続けて出てきたときに「確変はいってる!」とかね(笑)。 —— だからパチンコじゃないっていうのに(笑)。 土屋■そういえば、僕がウォッチに行ったとき、たまたまレアカードを引いた人がいたんですよ。 しばらく観察していたんですが、すぐにはフィールドに置かないんですね。周りの人に気づいて欲しいので(笑)。 いろいろと角度変えたりして、ずっと眺めているんです。レアカードはなかなか出ないですから。 で、結局は満足げにフィールドにカードを置いて遊んでいました。 大人がカードを広げて遊ぶのは恥ずかしいかな、とも考えたのですが、(お店を広げてプレーする)このスタイルだと、「カードの自慢できるだろう!」と思っていたんです。だから、思い描いた通りの反応で嬉しかったです(笑)。 —— スターターデッキにいきなりレアが入ってることもあるんですか? 土屋■スペシャルやレアは出てこないです。スターターデッキには、同じセットもありますが、いろんな種類がありますので、ダブることは少ないんです。 ロケテストですと、全体的な生産量が少ないので、ダブってる人がけっこう出ちゃいましたけど。 このカード(ブースター)は、1プレーが終わるごとに1枚出てくる。 このあたりが絶妙なところで、プレーしなければカードが増えないわけなんです。すぐにレアなカードが出てくるかもしれないし、なかなか出会えないかもしれない。 カードは1枚1枚、袋に入って出てくるので、袋を開けるときはかなりワクワクしますよ! 僕の昔の話ですが、“仮面ライダーカード”を集めてたときに、どこかのボンボンがこんなにたっぷり持ってて、それを見て萎えちゃったんですよね。僕らはいつも何枚かしか持っていなかったのに。 とにかく金で何とかされるのが嫌だったんです。だいいち金でガンと買ってもつまらないと思うんです。だから、ゲーム終了後に1枚だけ出てくるのがポイントなんです。 —— いいカードが出ても、出なくても、つい「もう1ゲーム!」みたいになりそうですね。 土屋■僕はゲームセンターに行ったら、UFOキャッチャーばかりやるんです。なぜかって言うと、なにか物がもらえるじゃないですか。 僕はゲームをクリエイトしているので、あまり言いたくないんですが、物をもらう魅力には負けるんです(笑)。だから終わったときに、おまけとして何か出してあげるゲームというのをつくりたかったんですよ。 『WCCF』は、いろんな構想と、いろんな思惑と、いろんなアイディアがカップリングした作品なんです。 —— さっきインタビューの前に数試合だけプレーしてみたんですが、試合中はフォーメーションを動かしたり、シュートボタンを叩いたり、いろいろとやることあるので、あっという間に1試合終わってしまいました。 土屋■うんうん。慣れないうちはそう感じるかもしれません。 1ゲームは約7分なんですが、操作に慣れてくるとあの7分はちょうどいい時間だって、GIGOなどでプレーしている人たちは言ってくださるんです。 —— 試合の合間に監督室に選手を呼び出すじゃないですか。 あれが、スゴクいいです(笑)。 土屋■ゲーム自身はチームを育成するという部分において、非常につくりがまじめでカチカチしたゲームなんです。 だから、あの部分はできるだけ笑えるような軽いつくりにしたかったんです。 —— カードをこすったら選手が扉を開けて監督室に入ってくる、それだけで楽しい! 土屋■モチベーションの下がっている選手を監督室に呼んで、3つの選択肢のなかから「笑わす」を選んだら、「笑ったらどうでもよくなった」とかね…。 —— おなかをさすってあげたら、「気持ち悪がっている」とか(笑)。 土屋■いろいろな性格の選手がいるんですよ。 だから、同じ選択肢を選んだとしてもリアクションが違ったりするので、確かにこの部分だけでもかなり楽しめますね。 —— ひとりで遊んでても楽しいと思いますけど、カードの交換もしたいし、サッカー談義に花も咲かせたい。 こうなってくると、やっぱり仲間が欲しくなりますね(笑)。 土屋■うんうん。 『DOC』で馬の好きな人がたまっているのを見ると、やっぱり人がたまれるだけの場所をつくりたいなって思うんです。 それを実現するためには、規模が大きくて入れられるゲームセンターは限られちゃうんだけど、『DOC』でもそうだったように8つのユニットはどうしても欲しかったんです。切り離したりもしたくなかった。 やっぱり、自分がそこに行くモチベーションがその空間には必要なんです。8台のモニターがあって、さらに巨大なメインプロジェクターがある。ここはサッカーコーナーですよ、ここはちょっといいスペースですよ、みたいな主張が欲しいんです。 さらに言うならば、そこには友達がいなければいけないんです。 渋谷GIGOに行っていただくとわかるのですが、サイドテーブルによってさらに大きな空間を確保しています。でも、そこがカードをトレードしたりフォーメーションを友達とチェックしあう重要な場所になっています。 場所ばかりとる感もありますが、コカコーラの人が自動販売機の売り上げがすごく上がっていて「何かあったんですか?」って聞いていたそうです。しっかりフロアーへの貢献はしてるみたいです(笑)。 さらにもうひとつ言ってしまうと、普通、業務用ゲームはインカムを上げる為にプレー時間をできるだけ短くするのですが、なるべく自分が行った時に友達が座ってプレーして待っていて欲しいじゃないですか。なので、今回はあまりガツガツ削りませんでした。 つまりは、あの8つのユニット、人、空間などすべてが必要不可欠。すべてが揃って「今日も行きたい」っていうモチベーションが生まれるんです。 —— あの巨大な空間にあるものには、すべて意味があるんですね。 土屋■実は、はじめて『DOC』を見たとき、「こんな大きくて、こんな高い筐体売れるか!」って思ったんです。でも、フタを開けてみたら、『WCCF』のほうがもっとデカくて、もっと高かった(笑)。 実際、やっちゃったな、デカいなって思っていたんですが、座ってみると豪華なんですよ。 目の前のフィールドにお店を広げるように自慢のカードを並べていって、こーんなモニターで、ICカード差し込むわ、何か出てくるわ、上もビカビカ光っちゃうみたいなところにダーンと座っちゃったりしてね、ちょっと優雅ささえありますよ。 —— カップルで行っても、席はふたりで座れるくらいにゆったりしてますし。 土屋■その通りです。 それから、最後にもうひとつこの場を借りて僕の希望とお願いを言えば、どこのロケーションでも、アテンダントが必ずついていて欲しいんです。 ゲームはシュートボタンを押すだけのシンプルなつくりですが、はじめてプレーした時は新しすぎて面白さに到達する前に終わってしまうかもしれない。それ以前にやり方もわからないままゲームが終わってしまうかもしれない。そうしたら2度とプレーしてくれませんよね。それだけは避けたい。 だから、ゲームのやり方を教えてくれるアテンダントについていて欲しいんです。できれば女の子のアテンダントがいい(笑)。 新しいって面白そうじゃないですか。でも、面白いかどうかは別問題なので、新しさが面白さに変わって満足してもらったとき初めてハマれると思います。そのためにもアテンダントの方よろしくお願いします。 —— 最後に、土屋さんのことをもう少し伺いたいと思います。 もしかしたら『WCCF』につながる何かを発見できるかもしれません。 まず、セガを選んだ(セガに就職しようと思った)理由から教えていただけませんか? 土屋■ある日、ゲームセンターを覗くと、赤いバイクがデーンと置いてあったんです。それは言うまでもなく『ハングオン』の筐体だったんですが、非常に驚きました! それで、ゲームセンターにバイク置いちゃうような、そんなぶっ飛んだ考えができるセガという会社に就職しようと思ったんです。 —— それでは、セガに入社して最初に携わったタイトルって何ですか? 土屋■最初は、小口さんのアシスタントで入って、『ヘビーウェイトチャンプ』とか、『スーパーダービー』をやりました。 その後、ディレクターとして『ジャンボ尾崎スーパーマスターズ』を作りました。これは、ビデオゲームでありながら操作方法がアナログで、野球盤みたいにゴルフクラブをはじいてボールを飛ばすところが面白いんですよ。 思い入れの強い作品のひとつですね(笑)。 —— アーケードだけでなく、コンシューマーの作品も多いですね。 土屋■そうですね。ゲームギアからドリームキャストまで幅広く手がけています。 思い入れの強いところでは、メガドライブの『Jリーグプロストライカー』や、ジェネシスの『バーチャファイター2』というマニアックな作品のプロデュースもしています。 あ、いま気がついたのですが、『Jリーグプロストライカー』と『WCCF』の縦フィールドって似てますね(笑)。 —— 子供じみた質問かもしれませんが、土屋さんの好きなものってなんですか? 土屋■家を探すときは、近くに釣りぼりがあることが条件なんです。それくらい、釣りぼりが好きですね。 釣りぼりって、魚を釣るだけのことしか考えなくていいから最高ですよ。 いま台湾では、エビ釣りがすげえはやってて、カップルでエビ釣って焼いて食うのがトレンディ。それって、かなり癒されると思うんですね。 —— 最後はちょっと答えるのに難しい質問です。 次につくりたいもの、プロデュースしてみたいものってなんですか? 土屋■アナログ感を大切にしていて、スポーツバーのようにたまり場ができるゲームをつくりたいんです。 そういう意味で、ヒットメーカーには、ダービーがあって、サッカーがあった。だから次は釣りぼりでしょ(笑)。 僕の育った平塚での七夕祭りでは、うなぎ釣りっていうのがあったんです。釣ったら焼いて食えた。 ヒットメーカーはダーツバー『BEE』(*1)をやっているので、僕は“釣りぼりバー”を狙っているんです(笑)。 うなぎ釣りバー『EEL(うなぎ)』、これでいきましょ。